無題

 

こんにちは、大阪駅前の税理士法人トップ財務プロジェクトの岩佐孝彦です。

今日の一冊はこちら。

 

 

『かばん屋の相続』池井戸潤(文春文庫)

 

 

それでは本日の赤ペンチェックを見てみましょう。

 

 

▼亮の齢はもう四十近いはずだ。銀行でそのくらいの齢ともなると、

もう将来は見えている。役員になれるか、支店長止まりか、それとも

支店長にもなれないか。

役員候補なら銀行に残れるが、そうでなければ、ひとり、またひとりと

出向させられ、定年まで銀行に残る者はほとんどいない。

中小企業と小馬鹿に出来たのも、自分の将来がまだ輝いていたからこそだ。

出世欲に駆られた銀行員にとって、昇格の望みがなくなれば、途端に

組織は色褪せ、居づらいものになってくる。

 

 

▼「万が一筆跡が本物であっても社長に正常な判断能力があったかどうか

疑問ですよ。専務の奥さんも、薬で意識がもうろうとしていたときに無理

に署名させたんじゃないかといってますし」

「疑いだしたら切りがないな。仮に本物だとしても、その内容で納得しろ

という方が無理だ」

 

 

▼「会社の株はともかくとして、先代の持ってた預金とかいろいろあるで

しょうに」

「だけど、会社を継ぐってことは借金なんかの保証も継ぐってことなんだぜ。

だったら、万が一のときにはその預金がいるだろうに」

 

 

▼「だけどな、太郎ちゃん。実は俺、親父からは相続放棄しろって言われて

たんだよ。お前は自分で会社作って、そこで頑張れって。だったら、あれが

偽造だろうがなんだろうが、どうでもいいじゃないかって」

 

 

▼「この一か月、兄貴は弁護士を引き連れてきて強引な理屈をこねくり回し

てきた。当然腹も立ったけど、それ以上に悲しくなってきてね。なんでこんな

人間になっちまったんだろうなって。昔の兄貴はそんなんじゃなかったんだぜ。

銀行で何があったか知らないが、だからって散々馬鹿にしてきた会社を寄越せっ

て。そんな都合のいい話はないと思う。そんなにやりたきゃやればいいんだよ」

 

 

▼均にとって、この相続の結末は、いままでの人生を否定するのに等しい

のではないか。

 

 

▼「結局のところ、親子の絆より、会社の繁栄を優先させたってとなのかなあ」

 

 

▼「仕事はゲームだと思え。真剣に遊ぶケームだ。いつもうまくいくゲームなんか

つまらないじゃないか。成功7割。失敗3割。そのくらいの人生のほうが絶対に

楽しいぞ。おれだってそうだ」

松田かばんという会社の経営が義文にとって真剣なゲームだとしたら、それに

勝つために、義文は情を捨てたことになる。

 

 

▼社長、このゲームは社長の負けですよ。

太郎は心の中でそうつぶやいた。今まで自分を支え、慕ってきた者たちを

不幸にするような結末が勝ちゲームのはずはないからだ。

「白水銀行出身の社長となると、これはウチもクビかもな」

そういうと高坂は陰気な顔でため息を漏らした。

 

 

▼「業績不振なのにそんな巨額融資が出来るか?万が一、焦げ付いたりし

たらとんでもないことになる。白水だかどこだか知らないが、ろくな審査

もなく融資してくれるところがあるんなら、そっちでやってもらおうや。

業績が安定してからウチも支援させてもうらうというのも〝有り〟じゃないか」

 

 

▼太郎は、いつだったか飲み会の席でいきいた八田の冗談を思い出した。

「いいか、女と融資は迷ったときには手を出すな、だぞ」

 

 

▼「松田かばんが作ってきたものは、喩えるなら高級車のフェラーリだ。

そのフェラーリが、値段も性能もそこそこの大衆車を作るって話だよ。

フェラーリは、高性能で目玉が飛び出るぐらい高い車だから売れるんだ。

そんな会社が安い車をバンバン作り始めたら、今までの客だって離れて

いくだろう。築いてきたブランドをドブに捨てるようなものじゃないか」

 

 

▼今まで通りの売り上げが確保できるっていうことを証明する必要が

あるんですが。受注状況はどうですか」

 

 

▼「甘いとかじゃなくて、これは経営者の信念の問題だと思います。

経営者だって人間じゃないですか。金のために何でもするような人を、

申し訳ないけど私は応援する気にはなれないんですよ」

 

 

▼代理店の倒産によって、松田かばんが被った売掛金の損失は、三千万円。

だが、そんなことよりももっと大変な事実が明らかになっていた。

倒産した代理店が銀行から借金するのに、松田かばんが連帯保証をして

いたのである。

 

 

▼松田かばんは連鎖倒産の危機だ。

「代理店がまだ小さくて信用力が無かったときに、ウチの親父が借金の

保証をしてやったのがそもそもの始まりのようです。

 

 

▼嘉文は取引先を大事にする男であった。だが、故に断ち切れないしがらみ

というものもあったのかも知れない。断ち切ってしまえば、売り上げの何割

かが消えてしまうという事情もあっただろう。そうなれば松田かばんも赤字

を覚悟しなければならない。

いずれにせよ、代償はあまりにも大き過ぎた。

 

 

▼裸与信というのは、なんの担保ももっていない融資のことだ。

つまり、松田かばんが倒産すれば、五千万円近くが貸倒れて損失になる

ということである。池上信用金庫にとって、一社で五千万円という損失

はあまりに大きかった。

 

 

▼にらみ預金というのは、正式な担保にはなってないのに、融資の担保

として見込んでいる預金だ。だから解約させないようにする。

かつてどこの銀行でも横行していたが、いまでは金融庁の指導でそうした

行為は禁止されている。

 

 

▼「信用金庫取引約定書第五条により、差し押さえ通知が発送された

段階で、御社はすでに期限の利益を喪失されています!」

 

 

▼「親父の病気がわかった後、俺は親父にいったんだ。俺が社長になる

から親父はゆっくり養生してくれって。ところが、親父はだめだといった。

この会社はたぶん潰れるってな」

 

 

▼「そしてこういったんだ。俺が死んでもお前は会社を継ぐな、相続放棄

して、会社は潰せって。職人たちともう一つ会社をつくればいいからって」

 

 

▼「そのとき親父は、連帯保証の件を話してくれたよ。最後までオレには

会社を継がせなかった理由もそれでわかった。兄貴、いくら喧嘩していても、

そんな会社を兄貴に黙って継がせるような親父だと思うか。親父は絶対に

そんことはしないはずだ。あんな遺言を親父が作るわけないんだよ」

 

 

▼最近、均の会社に池上信用金庫が融資したのは、競売に出た松田かばん

本社社屋の落札資金だった。何がなんでも落札したいといった均の執念に、

支店長の八田も本部を強引に説き伏せて融資の承認を取り付けたのだった。

出来て間もない会社に対しては異例の七千万円もの融資は、池上信用金庫

でも稀なことだが、どうせ貸した金は競売申立人である池上信用金庫に

戻ってくるので、平たくいえば「行って来い」だ。

 

 

今日も社長業を楽しみましょう。

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