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【お盆帰省考】岡山の名門企業の栄光と凋落《その1》

 

こんにちは、JR大阪駅前のTFPグループの

税理士法人トップ財務プロジェクト代表の岩佐孝彦@税理士です。

今日は平成最後の終戦記念日。戦後73年目を迎えました。

この時期すべての日本人に必要なのは『鎮魂』の精神

なのかもしれません。

というわけで、老舗の倒産企業に対しても『鎮魂』の精神を

持つべき??

そこで以前にある書籍で、
目にしたフレーズを思い出しました。

……………………………………………………

母が亡くなった時、弟が病院に駆け付けた。

私は彼を手招きして、
二人きりであることを確認すると、
こう言った。

「おまえが会社にしたことは
許してもいいと思っている。

社長として私が至らなかった面も
大きいからだ。

けれど、おまえが母さんを借金まみれに
したことだけは許すわけにはいかない。

母さんの葬式も一部の親族だけの
家族葬にする予定だ。

親戚の前に顔を出したら、
やり玉に挙げられるから、

おまえは来ない方がいいいだろう。

いいか、今後一切おまえと一緒に
仕事をすることはない。

会うこともない。」

……………………………………………………

これは社長の兄から専務の弟に告げた絶縁の言葉です。

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実はお盆期間中の岡山滞在中、ある老舗企業のことが、
私(岩佐)の頭をよぎりました。

その名は【株式会社林原】。

岡山を代表する長寿企業です。1883年創業。

食品原料・医薬品原料の研究・製造販売の
バイオメーカーです。

しかし、2011年に会社更生法を申請。

創業家は総退陣し、長瀬産業の傘下へ。

老舗企業の栄光と転落でした。
当時のグループ売上高は800億円。

グループ社員総数は1000人。

JR岡山駅前に5万平方メートルの土地を初め、
東京・京都・神戸など膨大な不動産を保有。

バブル時の不動産評価額は1兆円。

バブル後の当時の評価額も、1000~2000億円。

100年以上にわたり、
岡山経済の発展に大きく貢献してきました。

林原グループは以下の12法人で構成されていました。

 

▼林原 … グループ中核企業

▼林原生物化学研究所 … 研究開発部門

▼林原商事 … 商社や代理店に販売

▼太陽殖産 … 不動産管理

▼アメニティルネサンス … 飲食店ビル

▼HプラスBライフサイエンス … 健康美容

▼京都センチュリーホテル … ホテル経営

▼ザハヤシバラシティ … 岡山駅前の土地開発

▼ハヤシバラインターナショナル … 国際戦略

▼社団法人林原共済会 … 国際シンポジウム

▼林原自然科学博物館 … 恐竜化石展示

▼財団法人林原美術館 … 美術館運営

 

 

こんな名門企業がなぜ、倒産に至ったのか?

 

『林原家 ~ 同族経営への警鐘』日経BP社

 

林原社長による告白本的な構成になっており、

大変説得力があります。

例えば、こんなくだりがあります。

……………………………………………………

世の中には、
社員とほとんど変わらない額に
報酬を抑える社長もいるが、

私は反対だ。

社長に資産がなければ、
いざという時に会社を救えない。

資金繰りが厳しくなれば、
社長が会社に貸し付ければいい。

また未上場の中小企業の株価は、
業績が良いほど高くなるので、

家族に莫大な相続税がかかる。

相続税が払いきれずに保有株を売却し、
株式が分散すれば、経営に支障が生じる。

だから事前に少しずつ、
後継者に株式を譲渡するほか、

経営者や後継者がしっかりと資産を貯め、
相続税の原資に充てることが重要なのだ。

もっとも資金繰りが厳しいにもかかわらず、
一族が高額の報酬を得るのは論外だ。

あくまで健全な財務体質を前提にすれば、
という話である。

……………………………………………………

林原社長自身も当時、

年間1億円近い報酬を得ていたとか。

しかし林原で致命傷だったのは、
同族への高額な報酬ではありませんでした。

報酬以外に大量の資金が同族へ流出。

 

 

▼仮払金

▼貸付金

▼未収入金

 

 

このような不透明な勘定科目で経理処理が

なされていました。

つまり、同族ファミリーが会社から資金を借りた形

になっていたのです。

息子のマンション購入費を会社から

貸し付けてもらっていた? そんなこともあったとか。
林原社長には、現預金を初め、
10億4600万円の個人資産。

しかし、会社への債務は16億5800万円。

つまり、個人では6億円以上の債務超過

になっていたそうです。

お母様もまた林原から、
多額の資金を受け取っておられました。

その額なんと13億円。

ただ会社の経理処理上は貸付金。

お母様は借金まみれだったそうです。

お母様は結局、経営破綻の翌年にお亡くなりになりました。

ただ借金まみれのお母様の遺産相続を
兄弟は放棄するしかなかったそうです。

そこで冒頭の次の言葉が兄の社長から、
弟の専務へ発せられたのです。

 

「おまえが母さんを借金まみれに
したことだけは許すわけにはいかない」

:
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:

 

林原の破綻の大きな背景に、
兄弟経営の陰の存在があります。

社長の兄は研究者肌で、
組織を束ねるのが得意ではなかった。

一方の専務の弟は実務派で、
経理の実務をすべて任されていた。

兄は弟に経理を任せきりで、

月次決算書も全く見ておらず、
自社の売上がいくらかも知らなかったとか。

兄と弟とは5歳も年齢が離れており、
幼少の頃も一緒に遊ばなかったそうです。

そうした両者のコミュニケーション不足が
経営の危機を招いたと兄は述懐されています。

経理担当の弟からすれば、
貸付金や仮払金などの処理にしておけば、

 

 

▼法人の総資産は減らず、
林原の財務体質は表面上毀損しない

▼報酬ではないので、
個人の所得税もかからない

 

 

というように、

法人&個人の両面で税務財務上のメリットはある

と判断したようです。

しかし…

こうした資金の流れが積み重なり、
粉飾決算の温床になりました。

林原における粉飾決算の内容は、
以下の通りでした。

 

 

▼営業外収益項目の雑収入を
売上高に振替

 

▼税務申告用の決算書では、
売上原価や販管費で処理した経費を
銀行用の決算書では特別損失へ計上

 

▼グループ法人との取引により、
架空売上を計上し、実際の商品移動なし

 

▼支払利息の一部を美術品や土地などの
資産へ振替

 

▼土地をいくつかの取引と組み合わせ、
土地の計上額を増加させる

 

▼別途積立金を意図的に取り崩し、
特別利益に計上

 

▼グループ法人が債務超過にあるにも
かかわらず、貸付金を回収不能とせず、
貸倒損失を計上していない

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これらの処理を見ると、
金融機関が決算書のどこを見るのか、
弟の専務は熟知されていらっしゃったようです。

ただ林原には、銀行用と税務申告用の2種類の決算書が
存在していたようです。

弟は会社更生法申請の調査員に対し、
以下のように答弁したそうです。

 

「ここ数年はずっと黒字で、
借金も返済し続けていました。

一度もデフォルト(債務不履行)を
起こしておらず、

銀行には迷惑をかけていません。

確かに虚偽の決算資料に基づいて、
融資を意思決定させた瞬間はあった
かもしれません。

しかし、きちんと返済を続けているのに、
なぜ銀行はそんなに騒ぐのですか?

破綻させなければ、
いずれ必ず完済できたのに、

破綻させたから返せなくなったでしょ。

この程度の会計処理は、
同族企業ならよくあること。

なぜ僕らだけが責められなくちゃ
いけないのですか?」

 

 

しかし、金融機関から見れば、

 

 

▼林原の不正経理が看過できるレベルではない

 

 

と判断せざるを得なかったようです。

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:

日本の99.7%を占める中小企業では、
法人と経営者は表裏一体です。

ただ両者間のお金の流れについては、
注意が必要です。

法人の帳簿上NGなのは、以下の勘定科目です。

 

 

▼仮払金 … 相手先:同族グループ

▼貸付金 … 相手先:同族グループ

 

 

経営者が法人からお金を借りている??

これは金融機関の評価上、マイナスになります。

上記は実質【資産性なし】と判断されます。

また、法人の財務内容の不透明性を問題視されます。

 

 

逆に以下の勘定科目は、
金融機関の評価上マイナスになりません。

 

 

▼借入金 … 相手先:同族グループ

 

 

つまり、法人が経営者からお金を借りている。

経営者個人から法人に対し、
資金を貸し付けている状態です。

つまり実質上、

 

 

【役員借入金  =  経営者の資力  =  自己資本】

 

 

とプラス評価されます。

よって、銀行対策上は問題ありません。

しかし、これは同族ファミリーにとって、
相続財産になります。

同族法人に対する貸付金はれっきとした個人資産です。

よって、事業承継時に帳簿上、
先代の役員借入金が残っている場合、

 

 

▼給与(役員報酬)ではなく、
役員借入金の返済

 

 

という形で、法人から先代はお金を取るべし。

税務上は『みなし退職(分掌変更)』の前提で、

代表取締役社長退任後も、
社長時代の50%以下の報酬であれば、
法人から受け取ってもよいとされています。

しかし、役員報酬を受け取れば、
公的年金が減額されるケースもあります。

今日ちょうど戦後73年を迎えますが、

日本経済の今日があるのは、
先代の経営者の功績があったからこそ!

というわけで、今日の公的年金制度が成り立っています。

(私の世代は公的年金は当てにできませんが…汗)

よって、国からもらえるお金は、
満額受け取るのが賢明です。

先代経営者の老後資金の確保の上でも有効でしょう。

オーナーファミリーを守るため、

 

『名より実』

 

の税務戦略を展開して下さい。

林原の経営破綻劇を大いに参考にしてほしいと思います。

今日も社長業を楽しみましょう。

 

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